大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 昭和49年(ワ)736号 判決 1975年8月08日

原告

上村昭

被告

佐々木栄祐

ほか一名

主文

被告らは各自、原告に対し、金一、二三〇、六五〇円及びこれに対する昭和四九年七月一九日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

「被告らは各自、原告に対し金一、三〇一、五八一円及びこれに対する昭和四九年七月一九日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする」との判決並びに仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決

第二当事者の主張

(請求原因)

一  事故の発生

原告は、昭和四九年七月一八日午後〇時二〇分頃、千葉県市原市五井海岸五丁目交差点において、普通乗用自動車(千葉五五ほ二四一七、以下被害車両という。)を運転して信号待ちのため一時停止中、被告吉岡の運転する自動車(足立は一〇〇一、以下加害車両という。)に追突された。

(以下本件事故という。)

二  責任原因

1 被告佐々木は加害車両を保有して自己の営業のために使用し、又被告吉岡を雇傭して自己の営業に従事させ、本件事故はその職務執行中に惹起されたものであるから、人損につき自賠法三条、物損につき民法七一五条の各責任がある。

2 被告吉岡は、加害車両運転中に、前方不注意のため被害車両に追突したものであるから民法七〇九条の不法行為責任がある。

三  原告の受傷の程度

原告は本件事故によつて、右上腕切創、鞭打ち症、頭部外傷、顔面切創の各傷害を受けた。

四  損害

1 治療費 四八二、六〇五円

2 入院中の雑費 一八、〇〇〇円(一日五〇〇円×三六日)

3 入院中の看護料(妻の付添分) 七二、〇〇〇円(一日二、〇〇〇円×三六日)

4 通院のための交通費 一五、七五〇円

5 メガネ破損分 一〇、〇〇〇円

6 入院期間中の妻の休職分の損害 六三、二二六円

原告の妻は、付添看護のため、三六日間食堂勤務を休職せざるを得なくなり、その間の収入を失つた。

(内訳) 事故前三ケ月の平均月収 五〇、七二六円

休職によつて失つた賞与 一二、五〇〇円

7 慰藉料 五〇〇、〇〇〇円

8 車両損害 五〇〇、〇〇〇円

9 損害の填補 四九〇、〇〇〇円

10 弁護士費用 一三〇、〇〇〇円

被告らは、原告の再三にわたる催告にもかかわらず任意に支払わないので、原告は原告訴訟代理人に訴訟による取立を委任し、着手金一〇〇、〇〇〇円を支払い、成功報酬は認容額の一割とする旨約したのでそのうち一三万円を弁護士費用として請求する。

五  よつて、原告は被告らに対し、前項1ないし9の損害金のうち、填補された四九〇、〇〇〇円を除く合計金一、三〇一、五一八円及びこれに対する事故発生の翌日である昭和四九年七月一九日以降完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(請求原因に対する認否)

請求原因一ないし三項の各事実はいずれも認め、同四項の事実は不知

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生、責任原因、及び原告の受傷の程度については全ての当事者間に争いがない。従つて、被告らは原告に対し、本件事故により原告の受けた損害を賠償すべき義務がある。

二  損害について

1  治療費 四九〇、六五〇円

〔証拠略〕によると原告は本件事故による受傷の治療のため金坂病院で入院、及び通院治療を受けた外、常泉はり治療院において鍼治療を受け合計四九〇、六五〇円の出捐をなしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。尚原告は治療費として四八二、六〇五円を請求しているが、身体の傷害による損害賠償請求権は一個と考えられるから、総額として請求額の範囲内にあれば、民訴法一八六条に違背することはないと考える。

2  入院中の雑費 一八、〇〇〇円

〔証拠略〕によると原告は本件事故による傷害治療のため、昭和四九年七月一八日から同年八月二二日迄入院したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右入院期間(三六日)中、一日当り金五〇〇円以上の諸雑費の出捐を要することは経験則上明らかであるから、入院中の雑費としては一日当り金五〇〇円、合計一八、〇〇〇円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

3  入院中の看護料 七二、〇〇〇円

〔証拠略〕によると、原告は金坂病院に入院中、付添人が必要となり、昭和四九年七月一八日から同年八月二二日迄の間、原告の妻が原告に付添その看護を担当したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

近親者が付添の任にあたり、現実にその間に付添料の授受がない場合でも、実質的に考察してそれを原告の出捐した損害と認めるのが相当であり、右付添人の看護費用として、一日金二、〇〇〇円を下らないことは当裁判所に顕著な事実である。従つて付添人の看護費用は一日金二、〇〇〇円宛三六日間の合計金七二、〇〇〇円となる。

4  交通費

〔証拠略〕によれば、原告は昭和四九年八月二二日金坂病院退院後、現在に至るまで通院加療を続け、この通院のため、バス、タクシーを利用し、又原告の妻が看護のため金坂病院に通うための交通費を含めて、金一五、七五〇円費したとの供述があり、通院のため交通機関を利用し、そのため一定程度の金銭の出捐をなしたことは容易に推認しうるところではあるが、原告の妻が看護のため病院に通つた交通費は、特段の事情のない限り、看護料の中に包摂されているとみるのが相当であり、結局原告の通院のための交通費についてその金額を特定することができないので損害を認めることができない。

5  入院期間中の妻の休職分の損害

〔証拠略〕によると、原告の妻上村喜代子は原告の付添のため昭和四九年七月一八日より同年八月二二日まで三六日間、勤務先である市原市料理飲食店協同組合を休業したため、その間の給与の支払いを受けられなかつたこと、支払いを受られなかつた給与及び年末手当の合計金額は六三、二二六円(事故前三ケ月の平均月収五〇、七二六円、失つた年末手当一二、五〇〇円)であることが認められ、右認定に反する証拠はない。このように原告の妻が付添のため休業したことによる逸失利益の損害も一応原告自身の損害として請求しうると言うことは可能であるが、本件の場合、原告の妻の付添は、休業することによつてなされたものではあつても、既に認定した看護料は、原告が原告の妻の付添による労務の提供を受けたこと、即ち原告の妻の付添看護の労務を実質的に評価して認定したものであつて、換言すれば、別個に付添人を付けた場合に支払われるべき付添看護料が原告の妻の労務で補われたもので、いわば休業することによつて、獲得された労務が付添看護にあてられたという関係にあるから、原告の妻の付添看護を金銭的に評価した看護料の他に休業損害を認めることはできない。

6  慰藉料 五〇〇、〇〇〇円

既に認定した諸事情の他、〔証拠略〕によれば、昭和四九年九月二六日迄の間に一〇日間通院治療を受け、六三日間に亘り、休業を余儀なくされたこと、昭和五〇年六月二七日現在においても、週一回、通院を継続していること、鞭打症による症状のうち、首の運動に伴う痛みや悪天候の場合には頭痛がするなどの症状は未だ残存していることが認められこれらの事情を総合すると、原告の本件事故によつて蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料としては金五〇〇、〇〇〇円を相当と認める。

7  メガネ破損分 一〇、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、本件事故により原告所有の眼鏡のレンズが破損し、修理に一〇、〇〇〇円を要したことが認められる。

8  車両損害 五〇〇、〇〇〇円

〔証拠略〕を総合すると、原告所有の被害車両は本件事故によつて大破し、修理不能となつたこと、本件事故時における被害車両の市場販売価格は約五〇〇、〇〇〇円であることが認められ、これに反する証拠はない。

9  損害の填補 四九〇、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告は、被告佐々木から本件事故の損害賠償金の一部として金四九〇、〇〇〇円の支払いを受けたことが認められる。

10  弁護士費用 一三〇、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば原告は、原告代理人に本訴の提起を依頼して弁護士費用として金一〇〇、〇〇〇円を支払い、成功報酬を認容額の一割とする旨約した事実が認められる。

当裁判所は、本訴事件の経緯等一切の事情を考慮して、被告らに負担させるべき弁護士費用としては金一三〇、〇〇〇円を相当と考える。

三  結論

以上判断したとおり、原告の本訴請求は、前項1ないし3、6ないし8及び10の損害額の合計より9の損害の填補額を控除した金一、二三〇、六五〇円及びこれに対する昭和四九年七月一九日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条九二条但書、九三条、仮執行宣言につき、同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 林醇)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例